くらやみ12

「わたしは、」

目を閉じて、浅い息を吸う。

「…わたしは」

ふと言葉が口をつく。

「わたしは、なれない」

頭の中で、言葉が生まれては、暴れだす。

ずっと蓋をしてきた言葉。

止まらない。

「わたしは,太宰のようには、なれない」

ふと目を開けると,太宰はすべて紙屑になっていた。あんなにも大事に思っていた太宰の本は,今はもう何の意味もなさない。そんな状態になっていた。葉子が,そうした。何の強制も受けず,葉子自身の意思で。後悔よりも,痛快だと感じた。

(わたしは,自由だ)

ふと気づけば,部屋の外から,音が聞こえる。蝉時雨。やかましいクラクション。誰かの話し声。いつも通りの,生活音。さっきまで全く感じなかった眠気が、葉子を襲う。それを聞きながら,葉子は葉子になろうと思った。どうすればいいか、何をすればいいかも、さっぱりわからない。太宰という支えを自らなくした今、本当に立っていられるのかも、怪しいと思う。本当にわからない。それでも、直感的に正しいと思った。なれるものなら、なりたい。太宰でも,他の誰でもない,葉子自身に。