くらやみ11

目を閉じれば,思い出す。葉子は,ずっと自分を許せなかった。自分のことが,大嫌いだった。醜悪で,馬鹿で,何にもなれない,誰からも疎まれて,誰の役にも立たない,存在することを望まれていない人間だと思って生きてきた。いつも,生きているのが,無性に恥ずかしかった。申し訳なかった。どこにも居場所がないと思っていた。誰かといても,ずっと独りだと感じていた。そんな孤独の中,太宰の本に出会った。太宰の言葉は,葉子の中に何の抵抗もなく入ってきた。そんなことは,はじめてだった。夢中になって,何度も何度も読み返した。葉子は,はじめて居場所を見つけたような気持ちになった。

太宰の本は,確かに葉子を支えてくれた。消えたいと心の底から思う気持ちも,誰と関わっても味わう疎外感も,どこかに吐き出すことが出来ずに,いつも決まって,ただ太宰の本を開いた。いつだって,太宰の本の中に,葉子は,自分自身を見つけられた気がした。大半の文章を暗記してもなお,飽きもせず,本を開いた。太宰は,なぜこんなにも自分のことがわかるのだろうと,いつも葉子は思った。やがて,太宰の本が,その文章の一つ一つが,太宰が生きていたという事実そのものが,葉子の折れそうな背骨を支えていた。