くらやみ7

ふと気づけば、目的地。考え事をしていると、いつもこうだ。慌てて、降りる。もう少しで降りそびれるところだった。ふわふわした足取りながら、しっかりと着地して、歩き出す。潮風を感じる。楽しそうに騒いでいる人々を見ながら、そこから少し離れた場所に向かう。ざくざく砂を蹴って、海に近づく。静かな波に足を浸して,砂が流れていくのを一人で見ている。喧騒の中の静寂。葉擦れのような、波の音に耳を澄ませる。本当に海に来たんだなあと葉子は思う。こういう光景を,あの本の主人公や太宰も見たのだろうか。本当は,何を感じていたのだろうか。葉子は,考える。考えても,一生わからないことばかり,考える。太宰は,死んだ。生きるために,死んだ。穏やかな海を見ながら,葉子はそう思った。根拠はない。ただ,確信のように,そう思った。太宰の描く世界が,葉子のすべてだった。現実以上に,大きな存在として,葉子の中に在った。