くらやみ6

バスの中は、冷房が程よく効いている。首筋に張り付いていた汗が、少しずつ乾いていく。平日の真昼だからか、乗客は少ない。アナウンスとエンジンの音ばかりして、蝉時雨も追いかけてこない。しばしほっとする。席に座って、何とはなしに、ぱらぱらと本のページをめくる。内容を思い出す。心中する主人公。だが、自分だけ助かってしまう。この世の地獄を見た人だ。太宰について、葉子はそう思う。実際やったことがないので、葉子には、心中するときの気持ちはよくわからない。ただ、心中するほどの苦しさは、知っている気がした。おこがましいかもしれないけれど。現段階では、葉子には、相手がいないが。それはともかく、物心ついたころから、葉子は、太宰のように生きたいと思ったし、太宰のように死にたいとも思っていた。生きていることは、とてもつらい。そう自覚したのは、何歳ごろだったのか、もう覚えていないけれど、子ども時代も不適応を起こしては、何かと七転八倒していたし、大人になってもあまり変わらなかった。いくつか病院にも行ってみた。けれど、いくら薬を飲んでも、そうした思いは全然消えなかった。楽しそうに生きている他人を見るたび、葉子は思う。自分とは違う、と。