くらやみ5

葉子にとって,生きるということは,時にひどく苦痛を伴うことだ。生きているというだけで,ただそれだけで,呼吸すらつらくなる。あれは何なんだろうと思うけれども、葉子は,そんな自分を持て余している。弱い自分は嫌いだけれど,存在ごと消えたくなることなんて,葉子にとっては,呼吸と等しいくらいに自然なことで,当たり前のことだった。生物としては,おかしいと思っているけれど,いくらそう思ったところで,いつも最後は消えたいという気持ちが津々と湧いてくる。改めて考えると,やはり生物として間違っている気がする。破綻しているとすら思う。これまで,生きるということは,ただ,死に向かっていくことだと思っていたけれど,途中で道を断ち切りたくなる自分はどうなのだろう。ふと気づけば、路地裏の黒猫は、もういない。何の痕跡も残っていない。それを、さみしいと感じたけれど、同時に、いいなと思う。立つ鳥、跡を濁さず。物憂げな熱風が、葉子の髪を乱していく。そうして,ようやくのんびりとやって来たバスに乗り込んで,葉子は海に向かった。