くらやみ4

葉子のアパートから近場の海まで,バスで一本。頑張れば,歩いても行けなくもないけれど,暑い中ではしんどくて、とりあえずバスを待っている。我ながら、呑気なものだと思う。けれど、それが自分なので、仕方ない。バス停には他には誰もいなくて、時刻表を見ると,まだすこし時間がある。部屋で見つけた本を,また開く。何度も何度も読み返した本だけれど,開きたくなるのはこんな日だと葉子は思う。暑さに負けず、悠々と頁をめくる。何とはなしに、今日という日にふさわしいと思った。ふと視線を感じて、顔を上げれば、路地裏に迷い込んだ黒猫が,こちらを見ている。真夏の昼下がり。こんなにも暑くては,行き交う人もそう多くはない。世界は,晴れて,明るい。誰もいない街中では、自分一人が取り残されたような気持ちになって、どこか場違いな感覚を受ける。早くバスが来てほしいと思った。思えば思うほど,待ち時間は長い。蝉時雨の読経が、いやに鼓膜に刺さった。