くらやみ2

ふと気づけば,部屋の外では,蝉の声がしている。耳を塞いでも、当然、鳴り止まない。鼓膜が震える。音の暴威だ。毎年毎年飽きもせず、繰り返される光景だ。暑さが込み上げてくる。寒いくらい冷房の効いた部屋の中なのに、それを物ともしない。心の底から、夏だと思う。日ごろから、季節を忘れかけている葉子に,それだけが夏を思わせる。大音量の読経のように、弔われている。なんとなく,そう思う。このままでは,本当に死んでしまいそうだ。もう一度、耳を塞ぐ。意味などないと分かっていても、そうした。そうせざるを得なかった。この暴威から、果たして逃れることはできるのか。いっそ外に出ようか。蝉の声がしない所へ行きたい。窓に射し込む光がまぶしい。外は暑いと、一目でわかる。葉子は、どちらかというと、夏の暑さに弱い。日焼けもしたくない。冷房の効いた部屋でぼんやり過ごしている方が、性に合っている。それは、葉子自身、そう思う。それでも、蝉だ。うるさすぎる。耐え難い。いや、でも、外は暑い。分かっている。だけど。ひとしきり迷った挙句,何もかもが面倒になって,本でも読んで気を紛らわせることにした。本棚に、寝ころんだまま手を伸ばす。読みかけの本を取り出そうとして,別の本が落ちた。

「あ,」

この本の内容は,鮮明に覚えている。知っている。